売上予測の基本は「客数×客単価」に分けること
商圏から売上を予測するときは、売上を客数と客単価に分けて考えるのが基本です。1つの数字のまま見積もると、どこに根拠があり、どこが推測なのかが分からなくなるからです。
月の売上は「1日の客数×客単価×営業日数」で表せます。このうち、商圏データが特に役立つのは客数の見積もりです。商圏人口、到達圏の人口、前面道路の通行量などから、来店する人の数を推計します。客単価は、業態の価格帯に加えて、決済データで見る客層の年収水準なども参考にします。
予測は「当てる」ためだけのものではありません。前提を数字で書き出しておくと、出店後に実績と比べて、どの前提がずれていたかを確かめられます。これが次の出店の精度を上げることにつながります。
なお、売上予測は商圏の数字だけで決まるものではありません。商品力、接客、価格、販促といった店の努力によって、同じ立地でも結果は変わります。商圏データは「この場所でどこまで見込めるか」の土台を示すものと考えてください。
客数を見積もる5つの手法
客数の見積もり方には、代表的な5つの手法があります。業態と使えるデータによって向き不向きがあるため、2つ以上を組み合わせるのがおすすめです。
どの手法も、前提となる数字の出どころを明記しておくことが重要です。人口は総務省「国勢調査」、働く人の数は「経済センサス」、人の流れは通信会社などのビッグデータによる推計値というように、根拠を書き添えておくと、あとから前提を見直すときにも役立ちます。
| 手法 | 計算の考え方 | 向いている業態 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 通行量法 | 前面の通行量×入店率 | 駅前・路面の飲食や物販 | 入店率の仮定で結果が大きく変わる |
| 席数回転法 | 席数×1日の回転数 | 飲食・美容室など席や台数で決まる業態 | 満席に近い前提にしない |
| 商圏シェア法 | 商圏の需要×自店のシェア | スーパー・ドラッグストア・学習塾など | 需要とシェアの根拠が必要 |
| ハフモデル | 店の魅力と距離から来店確率を計算 | 複数の競合がある郊外型の店 | 魅力度の設定に経験が要る |
| 類似店比較 | 条件の近い既存店の実績から推計 | チェーン店・フランチャイズ | 商圏の条件が本当に似ているかを確かめる |
通行量法:店の前を通る人から客数を出す
通行量法は、店の前を通る人の数に、入店する割合をかけて客数を出す方法です。駅前や商店街など、通りがかりの客が多い業態で使います。
計算に使う通行量は、店が実際に面する道路の数字でなければなりません。商圏カルテの京都タワー周辺の例では、同じ区画でも南面の歩行者が11.12人/分、西面が0.54人/分で、約20.6倍の差がありました。面を取り違えると、予測は桁違いにずれます。
時間帯ごとに分けて計算するのもポイントです。たとえば南面の歩行者は平日10.40人/分、休日12.55人/分でした。営業時間を昼と夜に分け、それぞれの通行量に入店率をかけると、現実に近い客数になります。入店率は業態や店構えで大きく変わるため、高め・標準・低めの3通りで計算しておくと安心です。通行量の調べ方は通行量調査のやり方で解説しています。
出典:商圏カルテの実測サンプル。人流は通信会社などのビッグデータによる推計値。
席数回転法と商圏シェア法
席数回転法は、席数と回転数から客数を出す方法です。飲食店や美容室のように、同時に対応できる人数が決まっている業態で使います。
回転数は、昼・夜など時間帯ごとに分けて見積もります。開業直後から満席が続く前提は危険です。通行量法で出した客数と比べ、席数回転法の客数が大きく上回る場合は、回転数の想定が楽観的すぎる可能性があります。
商圏シェア法は、商圏全体の需要を見積もり、そのうち自店が取れる割合(シェア)をかける方法です。居住者が主な客になるスーパーや学習塾などで使います。需要は、商圏人口に1人あたりの支出をかけて考えます。1人あたりの支出は、総務省「家計調査」などの公的統計で確認できます。シェアは競合の数や規模から仮定します。
| 手法 | 計算式 | 仮の数値での計算例 |
|---|---|---|
| 通行量法 | 通行量(人/分)×営業時間(分)×入店率 | 10人/分×600分×1%=60人/日 |
| 席数回転法 | 席数×回転数 | 20席×2.0回=40人/日 |
| 突き合わせ | 2つの結果を比べる | 40〜60人/日の幅で前提を見直す |
表の数値は計算の流れを示すための仮の値であり、実際の入店率や回転数の目安ではありません。家計調査は総務省の統計で、e-Statで確認できます。
ハフモデルと類似店比較
ハフモデルは、店の魅力(売場面積など)と、客の住む場所からの距離をもとに、各店に来店する確率を計算する方法です。郊外で複数の競合店から客が選ぶような場面で使われます。
考え方は「大きい店ほど、近い店ほど選ばれやすい」というものです。商圏をいくつかの地区に分け、地区ごとの人口と各店までの距離から、自店に来る人数を足し上げます。詳しくはハフモデルの解説をご覧ください。
商圏シェア法やハフモデルでは、「どの範囲の人口を数えるか」で結果が大きく変わります。京都タワー周辺の例では、徒歩10分圏の人口が10,532人なのに対し、自動車10分圏は140,826人でした。業態の想定する来店手段に合った到達圏で人口を数えることが、予測の出発点になります。
類似店比較は、条件の近い既存店の実績から売上を推計する方法です。チェーン店やフランチャイズでよく使われます。ポイントは、商圏人口、商圏タイプ、前面の通行量、客層などが本当に似ているかを確かめることです。昼夜間人口比が大きく違う店を比べても、参考にはなりにくくなります。
| 来店手段 | 10分圏 | 20分圏 | 30分圏 |
|---|---|---|---|
| 徒歩 | 10,532人 | 55,021人 | 131,619人 |
| 自動車 | 140,826人 | 649,480人 | 1,339,908人 |
出典:商圏カルテの実測サンプル。徒歩5分圏は2,429人、自転車10分圏は139,030人。
客単価の見積もり方:客層データで確かめる
客単価は、業態の価格帯を基本に、その場所の客層の支払い能力で調整します。決済データを使うと、業種ごとの客の年収水準が分かります。
京都タワー周辺の例では、飲食の決済者は平均47.0歳・平均年収545万円でした。業態別に見ると、寿司は平均年収877万円、居酒屋・バーは588万円、カフェ・喫茶店は521万円です。同じ場所でも業態によって客の年収水準が違うため、客単価の想定も業態ごとに確かめる必要があります。
年収1,000万円以上の決済者は10.9%で、全国平均の7.5%を上回っていました。このように全国平均と比べると、価格帯を上げる余地があるか、値ごろ感を重視すべきかの判断材料になります。客層の読み方は決済データの解説もご覧ください。
客単価は、ランチと夜、平日と休日で分けて設定すると、売上の見込みがより現実に近づきます。1つの平均値で計算すると、客数の多い時間帯の単価に引っぱられやすくなるためです。
出典:商圏カルテの実測サンプル。決済はクレジットカードなどの決済データ。
予測の精度を上げる注意点
売上予測は、1つの方法と1つの数字に頼らないことが大切です。次の点に気をつけると、予測が大きく外れるリスクを減らせます。
とくに「幅で考える」ことは、資金計画とも直結します。悲観の場合の売上でも家賃と返済をまかなえるかを確かめておけば、想定より立ち上がりが遅くても慌てずに済みます。
- 2つ以上の手法で計算する:結果が大きくずれたら、どちらかの前提を見直します。
- 幅で考える:楽観・標準・悲観の3通りを出し、悲観の場合でも続けられるかを確かめます。
- 時間帯と曜日で分ける:平日と休日、昼と夜で客数は大きく変わります。
- 開業直後は控えめに:認知が広がるまでの数か月は、客数を低めに見積もります。
- 季節と開発を考える:観光地の季節変動や、周辺の再開発による人の流れの変化も考慮します。
- 実績と比べて直す:開業後は前提と実績を比べ、次の予測の精度を上げます。
商圏カルテで売上予測の材料をそろえる
商圏カルテのフル版には、売上予測に使う材料がまとまっています。半径500m・1kmの居住人口と昼間就業者数、徒歩・自転車・自動車の到達圏人口、前面道路の面ごとの通行量、平日・休日と昼・夜の時間帯、業種別の決済者の客層と年収、業種別の売上構成と全国平均の比較などです。
調べたい住所を入れるだけで、24時間以内にPDFをメールでお届けします。はじめての1回は無料(フル版・1社1回まで)です。商圏カルテは売上を保証するものではありませんが、予測の前提を数字で固めるための客観的な材料としてお使いいただけます。詳しくは商圏カルテのページをご覧ください。

